LOVE,Androgynous! Vol.2 Doctor

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いつからか医者という単語を聞くと、漠然と、エロティックな感覚がおこる。
白衣のナースに性的な幻想を抱くことと、俗っぽさで言うなら大して差はないかもしれないが、
看護師に聖母的なイメージを持つように、医者という存在そのものに特別な魅力があるとか、そんな風に思うわけではない。

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Karte01

わたしがぼんやりと思い浮かべる場面は、たとえば。
外科、内科、耳鼻咽喉科、産婦人科、皮膚科、精神科、と並んだ名前を一つひとつ追っていくと、自分の肉体が分類されて、ばらばらになっていくような感じがする。それぞれの名前でラベリングされた箱にばらばらになった体の一部が押し込まれていく。大きなものもらいが目立つ瞼を入れた箱が、眼科の診察室へ差し出され、医者は箱の中の瞼を捲り小さなライトを当てる。痛みはありますか?痛いのです。つらくて、耐え難いのです。言葉が淡々とカルテに書き込まれていく。

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Karte02

だからこそむしろ、保健室でブラジャーまで捲り上げて体をさらすことは、幼い頃から一度も恥ずかしくなかった。
恥はなぜ生じるか?自分が暴かれるとか、さらされるとか、思うからだ。
医者に体を見られても、暴かれるものは何もない。
医者は単純に裸を見慣れているからという理由より、例えばスーパーアイドルだって排泄するというような当然の現実に彼らは誰よりも実感をもっていて、広告や口コミで植え付けられたわたしたちの身体的なイメージはほとんど嘘だと知っているからである。

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Karte03

かといって、わたしは病院という場所が好きではないし、医療費も惜しみがちだから、よっぽどでないと病院へ行かない。待合室は落ち着かないし、注射は怖くないけれど、鼻や喉や口に金属が触れるのはシンプルに苦しい。
原因不明の強烈な痛みに襲われ、これはさすがに我慢ならないというときだけ渋々行くけれど、いざ医者に向き合ったらほとんど痛みが引いてしまい、問診に曖昧な受け答えをし、適当な薬を処方されて帰ることがある。

やっと痛みから開放されると安心することで、精神的に安定することが大きいのだと思うけれど。医者一人ひとりの存在以前に、もっと抽象的なイメージの医者というものに与えられた不思議な力がある。病に伏す人を救う治療の能力をもつ存在というのは、歴史の中でたくさん登場するし、今だって世界のどこかしこにいるが、彼らはけしてファンタジーではない。救いは霊的というよりは、精神的なものである。あれは、救いの力だ。

蛇足だが、小学2年生のときにすきだった容姿端麗・頭脳明晰・スポーツ万能の完璧なクラスメイトは、将来は人を救う医者になるのだという意思で私立の附属中学へ進んだ。けれどある日から、某大手アイドルグループの事務所に入って歌や踊りに熱中し、今はそれもやめ、俳優業をしているらしい。話を聞いた当時は、随分心変わりしたんだなと思ったけれど、人を救う存在になるという夢はちゃんと叶えているのかもしれない。

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